特別対談 窪田 健一 株式会社大戸屋 代表取締役社長 法師人 尚史 元気寿司株式会社 代表取締役社長

「作り立て」「出来立て」へのこだわりが、両社の共通点。
お客様に寄り添ったお店を目指すことで未来を拓く

いま外食産業は、少子高齢化による市場規模の縮小、コンビニ・スーパー・デパ地下などいわゆる中食の進出など様々な経営課題を抱えるとともに、長引くコロナ禍への対応という厳しい現実に直面している。そんな中、元気寿司の法師人社長と大戸屋ホールディングスの窪田社長が、両社の食へのこだわり、コロナ禍への対応、両社の将来の展望・取り組みを語りあった。同じ外食業界とはいえ「寿司」と「定食」で業種・業態は異なるが、店内調理で作り立て、出来立てにこだわる姿勢やお客様、地域のニーズに寄り添って商品開発を行っている点など共通点も数多い。

窪田健一 Kenichi Kubota
株式会社大戸屋ホールディングス 代表取締役社長

埼玉県出身、1970年生まれ。東洋大学法学部卒業後、大手流通チェーンに就職し1996年に大戸屋に入社。2007年に取締役、2011年に大戸屋代表取締役社長に就任。2012年から大戸屋ホールディングス代表取締役社長を務める

法師人尚史 Takashi Hoshito
元気寿司株式会社 代表取締役社長

栃木県出身、1968年生まれ。栃木県立益子高等学校卒業後、1987年に元禄(現 元気寿司)に入社、2008年に取締役に就任し、2010年に常務取締役に。2013年からは代表取締役社長を務める。


両社が大切にしていること
~出来立てへのこだわり~

元気寿司の法師人社長と大戸屋ホールディングスの窪田社長は2歳違いの同年代。創業は元気寿司が1968年(昭和43年)、大戸屋が1958年(昭和33年)と大戸屋が10年ほど早いが、同じように成長をしてきた企業といえる。冒頭では、お互いの事業の紹介や特色を語り合った。

法師人:創業当時は、安く食べられるお寿司がまだ世の中にはない時代で、創業者が「寿司の大衆化」ということを唱えて第1号店を出しました。今はコンビニでも、スーパーでも寿司を買える時代になり、寿司の大衆化を目指す役割は十分に果たすことができたと思います。回転寿司業界のトップ5の中で当社は一番店舗数が少ないですが、歴史は一番古く、業界に先だって店頭登録、二部上場、一部上場を果たしてきました。
これまでの寿司チェーンの歴史の中で、業界の競争が激しくなると店舗運営の効率化を実施するのですが、効率化により品質が落ち、お客様の評価も落ちていくという事実を、私は現場で目の当たりにしました。業界の先駆けだったので、元気寿司に対抗するために競争相手がどんどん進出してきて、より良いものをと取り組むので、ことごとく負けていくわけです。そのような時代を経験して、なぜ競争相手に負けるようになったかを考えてみると、かつての元気寿司は、その時代ごとにお客様の求めるクオリティの商品をご提供してきたという背景がありました。そこで品質にこだわったメニュー作りを始め、お客様が求める品質の高い商品をご提供していくという原点に返る、そうすると間違いなくお客様に評価していただける。このように、お客様に本物志向の商品をご提供していくことが、わたしたちの一番の使命だと感じています。

窪田:大戸屋は、創業者が池袋で一軒の定食屋を始めるのですが、先代の三森久実さんが19歳でその跡を継ぎ、そこから定食屋をチェーン化したいという想いを持ち、今の大戸屋が生まれました。先代は「定食屋をチェーン化するなんて無理だ」と周りから言われても、信念を貫き通してそれを実現しました。ともともと定食屋だったので店内調理は当たり前のことで、とにかく美味しいものを出していこう!という想いで試行錯誤を繰り返してきました。
何から何まで店内で、手作りでやってきたので、それが少し重荷になってきて効率化を始めるのですが、その効率化が、お客様よりも自分たちの都合による改革になってしまっていました。そのときは、少子高齢化による人手不足、働き方改革など切迫した事情から「効率化をしなければいけない」という想いでひた走っているので気づかなかったのです。ところが、やらねばならないことをやっても、なかかなか業績が上がらない。これはおかしいと気付き、外部の方のご意見をお聞きしたり、アンケート調査を実施したり、検討した結果、本当の意味でお客様の声に真摯に耳を傾けていなかったということに気づきました。自分たちの都合による効率化ではお客様の足が遠のくのは当たり前です。このことをしっかり反省し、もう一度、お客様のことを一番に考えてやり直そうと中期経営計画を立てました。

法師人:非常によくわかります。

窪田:お客様に満足していただくには、作り立て、出来立ての美味しさをお届けすることで、それには店内調理が欠かせません。効率化は必要ですが、美味しさを維持しながらやっていこうと思っています。
今の日本は、人口減少やエリアごとの多様化が進んでいます。大量生産・大量消費目的で作られた商品を日本全国一律に展開しようとするのは無理があると思っています。地域の多様性やお客様のニーズに応えられるのはやはり店内調理だと思います。

法師人:逆に言うと、店内調理ではないものって世の中にたくさんあふれていますからね。

窪田:そうなんです。

法師人:うちにしかないものを!という発想で考えれば当然、店内調理に行きつきます。

窪田:我々がやることは地域のお客様に寄り添い、作り立て、出来立ての美味しさをお客様にご提供していくことだと思います。「本当に街に寄り添ったごはん屋さん」を目指しています。


コロナ禍を乗り越えるために

このセッションでは、コロナ禍により大きな影響を受けた外食産業。両社のコロナ対策や、そこから学んだこと、アフターコロナを見据えた取り組みを話し合った。

窪田:大戸屋はイートインが主体なので、今までのビジネスモデルのままでは通用しないと思います。テイクアウトやデリバリーの強化なども実施してきましたが、最近は少し考え方が変わってきて、先ほどの法師人社長のお話にあったように、もう一度、原点に返って自分たちがやるべきことを見直そうとしています。
いまは攻めていかないといけない時期ですが、攻めるというのは、単に販促とか人気タレントの起用とか、値引きでお客様を呼び込むということではなく、商品のクオリティをいかに上げるかということだと思っています。
ご来店いただいたお客様が「美味しいね」と感じ「次はみんなで来たいな」と思ってもらえる商品を出していく。それが最大の攻めではないでしょうか。
今、社内では、「スマイル&スピーディ」という標語で、笑顔でお客様をお迎えし、スピーディに熱々の商品をご提供して、笑顔でお客様をお見送りするという、基本中の基本をもう一回みんなでやってこうと言っています。店内調理のよさを活かし、出来立てての美味しさをご提供しようと、それによってコロナが落ち着いたときに選んでいただけるお店にしようという方向に向かっています。コロナにはしっかり対応していかなければいけないのですが、社内からそういうエネルギーが出てきていることをうれしく思っています。

法師人:大戸屋さんの社内にそういうパワーが潜在していたのではないですか?

窪田:そうでしょうか。

法師人:危機に直面すると、却って、前向きな発想が大きくなり。社内がまとまることはよくある話だと思います。悔やんでばかりいるとマイナスの発想しかでてきません。コロナはなかったことにはならないわけですから、ここで何を学べたかということが大切。元気寿司もコロナにより、普段見えなかった組織の弱い部分が見えてきて、そこをもう一度テコ入れしようとしています。また、改めてお客様の安全性はもちろん、従業員の安全性も深く考えるようになりました。今回のコロナ騒動で業績的には苦しい局面を迎えていますが、これを乗り切れたら前よりも強い組織になっているという手応えを感じています。

窪田:反省すべき点は反省して、いかに地域に寄り添っていけるか、お客様に寄り添っていけるか。商品を軸に解決していけば、絶対に行けると思うんですよ。

法師人:「出来立て」にこだわると、結局、食品・商品の安全という観点から見ても良いですし、美味しいものを食べようと思ったときに、我々を思い浮かべてもらえる取り組みをどうできるかということでしょうね。


今後に向けて

最後のセッションでは、事業の幅を広げるための施策やお互いに共通する理念や両社の業務を発展させるための将来の可能性などを語り合った。

法師人:大戸屋さんはデザートもこだわって作っていらっしゃいますね。

窪田:基本的に添加物は使わず、素材にこだわってパフェなどをご提供しています。しかし、大戸屋の定食は、量がしっかりしているので、デザートまで注文するお客様はあまり多くありません。

法師人:しかし、デザートは飲食店にとってもうなくてはならない商品ですよね。少し前まで回転寿司業界では、1個100円のお寿司より高いデザートは売れなかったんです。しかし、各店舗に本格的なソフトクリームマシンを導入して今となっては、300円以上でも売れるようになってきました。

窪田:うちの娘も回転寿司に行くと必ず最後に甘いものを食べていますね。

法師人:お店の評価もお寿司だけでは難しくなってきて、サイドメニューも充実させています。ラーメンなどの麺類もメニューに加えています。今は暑いから冷麺がよく出ています。どういう味付けにするとか、茹で方をどうするとか、試行錯誤しています。

窪田:大戸屋でもラーメンをメニューに加えようと考えたことがあったのですが、結局実現しませんでした。

法師人:大戸屋さんでラーメンというと、本格的なラーメン屋さんぐらいにやらないといけないですね。

窪田:そうですね。中途半端なものにはできないので、スープも鶏ガラから出汁をとってということになるので…。海外の一部店舗ではラーメンを提供していますが、ちゃんと鶏ガラから出汁をとっています。

法師人:大戸屋さんとは、作り立て、出来立ての美味しさ、料理の温度とか香りとか…、本物志向という考え方ついては、とても共感できます。

窪田:元気寿司さんとは、定食屋と寿司屋という違いはあるにせよ、お客様に感じていただきたいもの、目指すものは同じだと感じます。

法師人:具体的な店舗の中身をお互いに深く知ることができると、もっと発見があり、お互いの事業に役立てることができるかもしれません。今後はそういう情報交換ができるといいですね。

窪田:コロナ禍で世の中が変わっていくのは間違いないので、我々だけではなく、シナジー効果があり同じ理念を持った企業さんとは何かの形で接点を持ちたいと思っています。

法師人:たぶんうちの厨房を見ると衝撃的だと思いますよ。

窪田:うちの厨房も衝撃的だと思いますよ。かなり衝撃的だと思います。

法師人:外食という括りでは、一括りにされてしまうけど、定食と寿司って別の世界だったりします。でも別の世界の方が、驚きがあっていいですね。

窪田:異業種って言い方がどうか分からないですが、理念感が一緒であれば色々と情報交換しながらやっていくというのは本当に大事だなという感じがしますね。何かそんなところから生まれてきたらおもしろいですよね。お客さんがあっと驚くようなことが生まれてくれるといいと思いますね。